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「ゆうゆう糖尿病」p28-30,4(april),2004

糖尿病運動療法と食事療法の関係
  山之内糖尿病予防研究所
             所長 山之内国男戻る

運動と食事は併用してこそ価値がある!
糖尿病のうちで約95%を占める2型糖尿病の大部分は肥満と関連して発症します。従ってその予防あるいは治療の根本は体重をコントロールすることから始まるといっていいでしょう。その際、後で述べるいくつかの理由がありますが、食事療法単独ではなかなか減量することが難しいのです。運動はこの問題点を解決するだけでなく、食後の血糖をさげたり高血圧、高脂血症といった他の合併症を改善させたりあるいは日常のストレスを解消したり、規則正しい生活のリズムを作ったりします。ですから、運動と食事を組み合わせた治療は減量を目指す患者さんだけでなく糖尿病の大部分の患者さんにおいて最も大切な基本的治療法となります。

内臓脂肪型肥満と運動 
 肥満度が同じでも体脂肪の蓄積部位の違いにより代謝疾患の罹病率に差が生じることが指摘されています。ウエスト/ヒップ比(W/H)により上半身肥満と下半身肥満にわけると前者に糖尿病や高脂血症の合併頻度が大であることは以前からわかっていましたが、日本肥満学会では、BMI(体重を身長の二乗で割ったもの:身長170cmで体重65kgの場合65÷2.89(1.7×1.7)=22.49)が25以上を肥満としています。また、ウエスト(臍の周囲径)で、男性が85cm、女性が90cm以上ですと、上半身肥満で内臓肥満の疑いが多いとして、腹部CTを撮り内臓脂肪面積を画像的に測定し、これが100平方センチメートル以上であれば、内臓脂肪型肥満と診断するように決めています。皮下脂肪型肥満に比し内臓脂肪型肥満に高血圧、高脂血症、耐糖能異常など生活習慣病が多いことは良く知られています。力士には内臓脂肪型肥満が少いのですが、これは運動により内臓脂肪の分解が活発になるためと考えられています。食事単独での減量に比べ運動トレーニングを併用した減量は内臓脂肪を効果的に減少させることからも運動療法が推奨される理由があるのです。

体脂肪のエネルギー計算
 肥満は体脂肪が過剰に蓄積された状態と言えます。体脂肪は過剰なエネルギーの貯蔵庫なのでこれを減少させるには食事による摂取エネルギーをまず減らすことが大切でしょう。そこで体脂肪は一体どれくらいのエネルギーを蓄えているのか概算してみましょう。脂肪組織はわずかの水と脂肪とから構成されているため組織1gあたりのエネルギーは約7ー8kcalと計算されます(純粋な脂肪は1g=9kcal)。従って1日1000kcalの食事エネルギーの摂取を減少させると1週間で7000kcalのマイナスとなり脂肪組織として約1000gが減少する計算になります。しかしマイナス分がすべて体脂肪の減少につながるかというとそうではありません。

減量初期の体蛋白の崩壊
 厳格な食事療法開始初期にしばしば認められる事ですが、初めはエネルギー源として脂肪組織だけではなく筋組織も利用されます。筋組織は水分を多く含んでいるので組織1gは約0.8kcalのエネルギーを持つことになります(純粋な蛋白は1g=4kcal,筋組織は水分を約5倍含むので大体5g=4kcalとなります)。もしマイナスのエネルギーが全部筋組織で補われるとすると、上述した7000kcalは約9kgの体重減少をもたらすでしょう。この場合、見かけ上減量効果としては華々しいものがありますが、体脂肪ではなく体を構成する蛋白の喪失によるものなので本来の目的とはかけ離れた結果になってしまいます。いかに体脂肪のみを減量することができるかが「ダイエット」成功の鍵を握ることになります。

減量における食事療法単独の問題点
運動によるエネルギー消費量は個人差がありますが、運動は消費エネルギーの中の5〜40%を占めます。食事も10〜15%ありますが、減食に伴って食事熱がぐんと減ってきます。それから、安静代謝率も60〜75%ありますが、これも減食にすることによって減ってきます(図1)。
図1

一日1,200kcalのバランスダイエットと600kcalのVLCD(ベイロー・カロリー・ダイエット)という方法で減量を試みた時の安静代謝率の変化を比較した成績(Fosterら、1990年)をお示しします(図2)。VLCDを8週間実施すると開始と同時に安静時代謝率が20%近く低下しその後食事を1200kcalに戻しても少なくとも3か月間は安静時代謝率の低下が回復することはなかったのです(図2)。
図2

このように極端な食事制限は身体活動性、食事熱が減少するだけでなく安静時代謝の低下を伴い、結果として消費エネルギーを減少させエネルギーバランスを保ち体の分解を防ぐ方向に働くわけです。このような節約機構は「ダイエット」にとってはありがたくないことなのです。ここで「ダイエット」をあきらめると、安静時代謝率の低下は数ヶ月間持続することがわかっていますので相対的に食事の過剰摂取となり、しばしば体重増加を招くことになるわけです。この際、運動していなければ過剰なエネルギーは体脂肪率の増加につながることになります。これをリバウンドと呼びます。このようなダイエットの失敗すなわち体重減少と体重増加を何度も繰り返すことをウエイトサイクリング(ヨーヨー現象)といいますが、これは死亡率や冠動脈疾患の罹病率を高めることが指摘されています。

運動と食事の併用効果    
 適切な運動の併用は,体蛋白の喪失を防ぎ脂肪をより燃焼させるように働くことが報告されています。Zutiと Golding(Physician Sportsmed. 4:49, 1976)先生は3群の成人女性を対象に16週間の減量プログラムを実施し、食事制限群、食事と運動併用群、運動群それぞれ500kcal/dayの負のエネルギーバランスを作り身体組成の変化を比較しました。その結果、いずれの群もほぼ5kgの体重減少が得られましたが食事制限群で除脂肪体重(主に筋組織)が減少したのに対し他の2群では除脂肪体重の増加が認められたと報告しています。このように運動は消費エネルギーを増大させるだけでなく筋肉の減少(基礎代謝の減少にもつながる)を防ぐので、食事療法のみによる問題点を解消しバランスのとれた減量へと導いてくれるのです。

どのような運動がいいか?
 私たちの研究室で、実際に14名の肥満糖尿病患者さんにおいて1日1万歩以上の歩行と1000-1600kcal/dayの食事療法を組み合わせた減量プログラムを6-8週間実施し、食事単独で減量していただいた群とで、肥満に伴う種々の合併症の病因となるインスリン抵抗性の変化を比較させていただいた研究を行いました。運動併用群では食事群の2倍の8kgも体重減少が得られインスリン抵抗性も有意に改善されることが証明されました(Yamanouchi K et al Diabetes Care 18:775-778, 1995)。また歩数とインスリン抵抗性改善度とは有意な相関を認めました(図3)。
図3

この成績は日常生活でよく歩くことを心がけるということは有効な運動処方として認められることを意味しています。運動実施法としては有酸素運動で一日のうち20-30分間以上の持続で週に3-5日実施することが最良であると以前から言われていました。しかしながら最近の考え方は表1に示すように必ずしも運動時間をきめなくても10-20分の短い運動でも一日のうちで合わせて30分以上、あるいは身体活動性を高めることにより疾病予防としての効果は十分に認められるとされています。これは身体活動性を含めてできるだけ歩く生活習慣をつけることの大切さを改めて感じさせます。
表1

おわりに
 糖尿病患者さんは日常生活の中で食事療法と運動療法の併用あるいは歩行を中心とした身体活動性を高めることにより,余分な体脂肪を減少させインスリン抵抗性の改善を通して糖・脂質を含めた代謝改善効果が得られます.この際、運動を長期間続けることが大切ですが、そのためには歩数計を利用し身体活動性を高めたり、日常生活の中で習慣的に運動を組み込んだり、運動日誌をつけるといった工夫も必要となるでしょう.戻る